NPO法人日本サーバント・リーダーシップ協会

第3回サーバントリーダーシップフォーラム  講演概要


◆サーバントリーダーシップフォーラムについて
NPO法人日本サーバント・リーダーシップ協会 理事長 真田 茂人

■サーバントリーダーの発掘
 サーバントリーダーシップとは、もともとロバート・K・グリーンリーフ氏(1904~1990)が提唱した「リーダーである人は、まず相手に奉仕し、その後導くものである」というリーダーシップの実践哲学です。ここ最近では、サーバントリーダーシップを実践して、成功を治めている企業やビジネスリーダーが増えています。アメリカでは、スターバックスやサウスウエスト航空、P&G、日本では資生堂がサーバントリーダーシップの実践企業として有名です。しかし残念ながら、日本において他企業の名前はまだあまり出てきません。
 そこで私たちは、サーバントリーダーシップを発揮して活躍なさっているリーダーの発掘に努めています。そうしたリーダーのリーダーシップに対する考え方や実践の効果を、多くの方に知っていただくことで、サーバントリーダーシップを意識するリーダーを増やしたいと考えています。

■サーバントリーダーは何に奉仕するのか
 サーバントリーダーが「メンバーに奉仕する」ということは知られていますが、実際はメンバー以外に、ミッションやビジョンにも奉仕しています。サーバントリーダーシップの根幹にあるのは、人の役に立ちたいという「利他」の心です。サーバントリーダーはまず、人の役に立つミッションやビジョンを描き、その実現のためにメンバーや関係者に奉仕するのです。

■「いい組織」「いい会社」の定義
 ここ10年で「いい組織」「いい会社」の定義がずいぶん変化してきました。かつては、利益を出して納税する会社が、後に、利益の一部で文化・芸術活動を支援して社会に還元する会社が「いい会社」でした。そしてここ10年では、本業をもって社会問題を解決する会社が「いい会社」とされています。儲けた利益をどこに使うかではなく、儲け方じたいが問われる時代なのです。
 だからこそ、人の役に立ちたいという利他の心があり、利他の心から人の役に立つミッション・ビジョンを描き、実現しようとする「サーバントリーダー」は、今の時代の「いい組織」を創るのに重要な役割を果たすのではないでしょうか。

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◆時代が求めるリーダーシップ
日本マイクロソフト株式会社 代表執行役社長 樋口 泰行 氏

(ファシリテーター:参議院議員・元文部科学副大臣 鈴木 寛 氏)

■経営者として大事な3つのこと
1)健全なる企業文化をつくる
 企業文化が不健全であると、世の中のトレンドや悪い情報がなかなかトップに伝わらず、企業としてのダイナミズムがなくなってきます。
 ダイエーは長年、店頭に並ぶ「野菜の鮮度の悪さ」が問題とされてきました。ところが、危機意識の欠如、他責意識、一部の実力者に偏った発言権など、不健全な文化が解決を遅らせていました。
 そこで全部署から、野菜の鮮度改善に取り組みたいと本気で思っているメンバーだけを集めて、プロジェクトチームを組みました。私はすべてのミーティングに参加して、年齢も役職も性別も関係なく、ダイエーを良くしようとする意見をどんどん言わせました。そうしなければ、ベテランやポジションのある人しか物を言えないからです。何か言いたいけれども言えずにいるメンバーを指して、私が話をさせることも度々ありました。

 それでも長年の体質は簡単には変わらず、何度も挫折しかけましたが、このプロジェクトひとつできないのなら、この先ダイエーは何もできないだろうと思い、デッドラインを決めて必死に取り組みました。結果として、だんだんとチームワークが発揮され、最終的にはお客様に対する大々的な「野菜の鮮度宣言」を経て、お客様からの信頼を回復するに至りました。これは健全なる企業文化の実現に向けて、非常に大きな一歩だったのではないかと思います。

2)社員力を高める
 さらに、赤字で閉鎖することになった全国50の店舗をほぼ全て回りました。周囲からは批判もありましたが、私はただ、店を閉める理由を直接説明したい、長年働いてくださった方に一言お礼を伝えたいという一心でした。閉鎖店舗では、社員やパートのほとんどの人たちが涙を流し、時にはなじられることもありました。しかし、励ましに行ったつもりが逆に励まされることもありました。

 意図していなかったのですが、結果的に、彼らがその後張り切って頑張ってくれたおかげで、閉鎖店舗の最後の売り尽くしセールで、2年4ヵ月ぶりの前年比プラスを実現させました。さらに閉鎖店舗から継続店舗に配置転換になった社員の方が「店が赤字になってはダメだ、みんなで頑張ろう」と言って回ってくれたこともあり、継続店舗の社員も意地を見せようとモチベーションが一気に高まりました。その結果、継続店舗も11ヵ月連続で前年比プラスを達成したのです。これが社員力であり、社員はモチベーションが上がった時には大変な力を発揮するものだと思いました。

3)経営者としての戦略
 現状のビジネスモデルで利益を出すのが苦しい場合、経営的余裕がある間に、違う戦略的柱を立てなければなりません。戦略的転換をする時には、社員がなかなかついて来られない場合もあります。そういう時は、遠くが見えている経営者が大きく舵を切るのも責任だと思っています。
 一方で、自ら現場に赴き、何が起こっているかを確認し、セクショナリズムがあったら自ら取り除くことも重要です。「アクセスしやすい自分」にならなければ、社員は話をしてくれません。社員に共感するためには感受性を高めることも必要です。一方でそれに引っ張られすぎると経営の優先順位を誤ってしまうこともあります。人に優しいだけの「いい会社」を創っても、これからのグローバル競争の中では生き残っていけません。今後もそのバランスを取っていかなければいけないと考えています。

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◆経営者の手帳 ~経営者が常に心すべきこととは~
法政大学大学院 政策創造研究科教授 坂本 光司 氏

■経営者が組織の明暗を分ける
 日本全国の株式会社や有限会社のうち、実に75%が赤字となっています。一方で、私はこれまで7000社を訪問してきましたが、そのうち1割ほどの会社は20年以上、売上高経常利益率が5%以下になったことがないという会社でした。同じ日本にありながら、なぜそうした格差が生まれるのか。そうした会社が他の会社と根本的に異なるのは、何よりも経営者の考え方やリーダーシップでした。

■ブレない「人本経営」
 私は、日本でいちばん大切にしたい会社は「ブレない人本経営」をしている会社と考えています。
 お客様を幸せにしたいと思うなら、お客様に幸せを提供する社員を大切にすべきです。経営者に不信感を持っている社員が、業績を上げるために努力をしたいとは思わないでしょう。自分たちの幸せを心底願って行動してくれる上司に対してならば、その人のために寝食を忘れて努力することもあるでしょう。

■社員のモチベーションを高めること
 私がモチベーションの研究をした時、社員がやる気を喪失する最大の要因は、経営者や上司に対する「不平・不満・不信感」でした。業績が高い会社の共通点として、社員のモチベーションが高いことが挙げられます。これは業績が高いから社員のモチベーションが上がるのではなく、社員のモチベーションが高いから業績が高まるのです。
 社員のモチベーションを高めるには、経営者は「良い職場風土を創る」「正しい目標を明示する」「自らが先頭に立つ」といったことが必要です。

■経営者の最も大切な3つの使命
 経営者が果たすべき使命は3つあります。
 (1) 向かうべき目標(方向)の明示と決断
 (2) 全社員がその方向に向かって全身全霊で努力できるような良い職場環境を創ること
 (3) 後継者を発掘し、育てること
 商品開発や仕事の管理、社員の育成は現場に任せ、経営者がこの3つの仕事に専念することが、良い組織を創るためには不可欠だと考えています。

 経営者が考えるべきなのは、経営戦略の前に、何のためにその会社があるのか、その仕事をするのかという経営理念です。そして、経営者の最大・最高の使命である決断は、いつの時代も私利私欲のためではなく、「正しいか、正しくないか」を軸に行うべきです。
 企業経営の成否は、すべてトップにかかっている。だからこそ、経営者は使命と責任を果たすことを大事にしていただきたいと思います。

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◆人間性を通じて企業の存在を問う ~実践知リーダーのあり方~
エーザイ株式会社 理事 知創部部長 高山 千弘 氏

■エーザイの掲げるミッションや理念
 エーザイでは、それまでは「医師が顧客」という考え方だったところ、2005年に内藤社長の主導で、「患者様とそのご家族の喜怒哀楽を第一義に考え、そのベネフィット向上に貢献することを企業理念と定め、この企業理念のもとヒューマン・ヘルスケア(hhc )企業をめざす」と世界で初めて定款に企業理念を入れました。その翌年には、まず利益を追求するのではなく、「使命は患者様の満足の増大であり、その結果として売上、利益がもたらされ」るとし、この「使命と結果の順序を重要と考える」という条項を追加しました。つまり、まず企業の使命(ミッション)を追求することが先で、その後に結果として利益がついてくるという考えです。利益の追求が第一の目的ではないのです。

 例えばエーザイでは、WHO(世界保健機関)のリンパ系フィラリア症(難治の熱帯病)制圧活動に対して治療薬を無償提供しています。その結果として熱帯地域の中間所得者層を拡大し、将来の市場拡大を得られると考えているのです。

■ミッションや理念を実現する戦略・戦術
 内藤社長がこの企業理念を掲げた時、社内の反発は大きく、なかなか浸透しませんでした。しかし6年目に一橋大学の野中郁次郎教授の「知識創造理論」と出会い、知創部を創設して、その理論を用いて理念を実現する仕組みを整えました。具体的には、①共同化、②表出化、③連結化、④内面化というプロセスの中で、暗黙知と形式知という2種類の知識を創造していくものです。これら4つのプロセスの英語の頭文字をとってSECIモデルといいます。
 エーザイでは、とくに①共同化を大切にしています。共同化とは、現場に赴いて患者様と共に時間を過ごす体験をすることにより、彼らの喜怒哀楽を知ることです。そこで初めて、患者様が何を求めているのか、つまり、患者様の真実を知ることができるのです。

 アリセプト(アルツハイマー病治療薬)の研究者がアルツハイマー病患者様のいる施設を訪れた時のことです。嚥下困難で水分の摂取さえも難しい方が市販のゼリーを食べることができ、介護者の皆さんが歓声を上げるという場面に遭遇しました。それをきっかけに、それまで取りかかっていたアリセプトの液剤開発を取りやめ、患者様が服用しやすいゼリー剤の開発に変更しました。これこそが、共同化による新たな知識の創造なのです。

■社員の力を引き出す実践例
 エーザイでは、全社員のビジネス時間の1%(年間約2~3日)を投入して、患者様との共同化のために時間を費やすことを内藤社長が決断しました。これは、社員が実体験を通して今までの固定観念を捨て、自分の価値観を根本的に変えるような瞬間(ディファイニング・モーメント)をたくさん経験してもらうためのものです。その結果、自社のミッションや理念を心から理解し、hhc を実現するような薬の開発やサービスの提供につなげることができると考えています。

 例えば、エーザイの社員が老人ホーム等での認知症患者様の介護を体験したり、小児がんの患児さんとの交流などを行っています。これらの共同化の実践から生まれたhhc 活動として、認知症の診断技術向上のための研修プログラムの開発や、米国での高齢者介護マニュアルの整備などを実現してきました。また、薬を一錠服用するのに時間のかかる患者様とご家族に配慮し、口腔内において10秒という短い時間で簡単に崩壊する錠剤の開発も行いました。さらに発展して、認知症になっても安心して暮らせるまちづくりにも取り組んでいるのです。

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